忘れてしまえば良かった
くんくんが珍しく会社から帰ってすぐにデスクトップの私のPCを開いていた。
自分のノートPCではなく。
家で仕事をするわけはないし、何してるのかな?とは思っていたが、
用事をしていたのでのぞくこともしなかった。
しばらくするとくんくんがちょっと来てという。
「どう?これ」
見ると、PCのモニターに、インドの国旗と、その描き方の順番らしきもの
があった。
エクセルなのかメモ用紙なのかわからないけど、幅を指定して
三分割にしてオレンジと緑の真ん中に白、
○を使って・・・ていねいに順番が書かれていた。
やりかけていた用事が済んでいなかったので、パッと見て
”あ、インドの国旗?”
といってPCの前からいなくなったら、くんくんの顔つきが変わった。
数分後、
「こんなことなら、これを思いついたことを会社から出る前に忘れて
しまえば良かった。」
悲しそうな、怒ったような言い方と顔に、ハッとした。
「もっと喜んでくれると思ったのに。」
そうか、くんくんは私が最近インドのことばかり話していて、そして、
世界の国旗のことをほとんど毎日話題に出しているから、
これを思いついて、教えてあげたらどんなに喜ぶだろうと想像したんだね。
「たいして喜ばれもしないことに時間をかけることほどムダなことはない。」
ごめん、くんくん。
くんくんの気持ちを想像したら、すごくかわいそうなことをしたと思った。
まるで、人を信じることをできなかった人が、初めて信じようと思ったときに
裏切ってしまったような気持ちになった。
小学生の時に、給食で出たチーズの包み紙にお花の絵が描いてあるのを、
ずっと一年間ためていて、学年の最後に家に持って帰って来てくれた
くんくん。
「お母さんがお花好きだからよろこぶとおもって」
大人になったくんくんは、あの頃と変わっていないのだ、きっと。