偽善者とおじいさんの時計
本当の善とはその人の為に助けたり、手伝ったりすることで、多くの人は
「いい人に思われたいか」「自己満足」偽善者だとくんくんが言った。
えー、そんなことはないよ。
だってお母さん、この前だって新宿で重たそうなスーツケースを持って一人で階段登ってる女の子がいたから
「一緒に持ちましょう」って言って手伝ったよ。
お母さん、自分がそういう経験(重たいスーツケースを運ぶ)
あるからわかるんだよ。
その子、本気で嬉しそうな顔で「ありがとうございました」って言ったよ。
その顔見て「ああ、今日はいいことした」ってお母さんの方が気分が良かったもん。
お母さん、よくそういうこと、しょっちゅうだよ。
「そういう人は希有ですね」
とくんくん。
みんな、そうだよ。
私の中で、人が喜ぶことが自分も嬉しいと思っている人々の顔が浮かぶ。
くんくんは人を信用していないのだろうか。
まあ、自己満足といわれたらその通りだけれど。
ある時、くんくんとランチを外で食べた。
「大きなのっぽの古時計」のおじいさんは何歳かという話で、
おじいさんの生まれた朝にやってきたから100歳だと思っている人が多いが、
そもそも時計が新品かどうかはわからないとくんくんは言う。
「でも、おじいさんと一緒にチクタクチクタク100年休まずに、
だからやっぱり100歳じゃない?」
と言うと、くんくんが反撃してきた。
くんくんは自分の意見が通らないと、どんどん大きな声になるので、
私はさっきからずっと気になっていた隣の席のおじいさんの方をちらりと見た。
かなりなお年寄りだ。
そんなおじいさんの横で
「おじいさんが死んだのは」とか
「100歳で死んだ」とか
大声で議論するのはいけない気がして話を変えようとした。
が、くんくんはまだおばあさんは生きていたのか、など言ってくるので
だんだんおかしくなって、私はくすくす笑いがとまらなくなった。
いつまでも私が笑っているので
くんくんは
「何がおかしい?」と不審そうに聞く。
店を出てから教えてあげた。
さっき隣の席にいたおじいちゃん、注文する声もちゃんと出せなくて、
ご飯だって全部食べられないから半ライスにするくらいなのに、
くんくんてば平気で大きな声でおじいさんが死ぬ話とかして。
「ああ、そういえばそう(ライスのこと)言ってたね。全然視界に入ってなかった。」
とくんくん。
お母さん、いろんな人のことよく見てるんだ、いつも。というと、
「人が好きなんだよ。」と言った。
そういうことなのかな。